06.01.05

la morte della maestra

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 昨日から意識のなかったyのマエストロが、静かに息を引き取った。享年70歳。
 彼女が息を引き取った時、僕らは彼女の家の下にあるbarにいた。そのbarに彼女の息子がコーヒーを飲みに来て、その時初めて息を引き取ったことを知らされた。ベファーナの祝日の、静かな午後。これでもかというくらいに綺麗に晴れわたった真っ青な空。まだヴァカンスから明け切っていない、交通量の少ないミラノの街。
 すぐに彼女の家に行くと、彼女の身体がある部屋のドアは閉まっていて、今遺体に服を着せ、綺麗に体を拭き、化粧を施していると、彼女の身内の人が教えてくれた。僕らはそのドアの前で立ったまま、彼女と対面できる時を待っていた。身内の人達が、彼女の寝室から出たり入ったりしている。部屋の整理をしているのだろう。そこにいる多くの人が、疲れ切った顔をしていたが、yを見ると、強く抱きしめて声をかけてくれた。僕はその傍で黙ってそれを見ていた。

 Linaと僕は合計では5回ほどしか顔を合わせたことがなく、そんなにたくさん話したわけでもない。僕が知っているLinaは、yから聞いたLinaだった。若い頃のLinaはばりばりの優秀なニット職人で、自分のブランドを持ち、今はyが使っているLabも元々はLinaのものだ。
 yを娘のように愛し、同時に、自分の培ってきたニットのテクニックを伝授できる弟子としても、yを本当に気にかけていた。
 yが僕をLinaに紹介した時、彼女は胃の摘出手術を終え、ベッドの上での生活者になっていたが、本当に喜んでくれ、2人が共に助け合って生きていくよう、仕事の支えになれるよう、アドバイスをくれた。説得力のある言葉だった。
 
 Linaが眠っている部屋のドアが開かれ、身内の人達が1人1人Linaに対面していき、僕とyの番になった。
 小さくなったLinaがベッドの上に静かに横たわっていた。彼女がばりばり働いていた時に彼女自身が作った可愛いヒラヒラの付いたグレーのニットを着ている。yはじっと彼女の顔を見つめ、お腹の上で組まれた彼女の手に自分の手を重ね合わせる。声には出さないが、きっとLinaとのお別れをしていたのだろう。最後にLinaの手にキスをして部屋を出る。部屋を出た途端、yの感情が高ぶって、強く泣き始めた。白い壁におでこを押し当て、本気で泣いた。僕はそんな彼女の肩に手を置いているだけで、何も声をかけなかった。ただ、彼女が泣けるだけ泣かせてやりたかった。Linaの娘のPaolaがyを後ろから抱きしめ、声をかけた。

「Linaが天国に行って、私たちを見守ってくれることを、あなたが一番よく知ってるでしょ」

 yは泣きながら、何度も何度も頷いた。

 夜、2人でyの家の近くの飲み屋に行き、アペルティフをした。yはフルーティなカクテルを、僕はテキーラベースの温かいコーヒーを飲んだ。2人でLinaに乾杯した。
 
 悲しむだけで終わってしまったら、それは本当に悲しいことだ。それよりも、彼女が僕らに残してくれたものを僕らがしっかりと受け止め、実感し、行いとすることが、Linaに一番喜んでもらえることだと思う。この世にLinaというイタリア人のニット職人が生きていたという、生きた証明を僕らは持っている。

投稿者 tomo : 06.01.05 22:40 | トラックバック