1時にdiegoのスタジオに行き、ヘトヘトになって帰ってきたのは夜中の3時だった。メインモデルは現在行われているミラノレディースコレクションのトップの方の女の子らしく、ただ単に背が高くて痩せているだけではなく、骨格がものすごく綺麗な形をしていた。顔はもちろんものすごく小さい。基本的に日本人のエキストラは彼女のバックで色々とやっていたのだが、なぜか僕ともう一人の男の子だけがやたらにきつい体勢にさせられ、明日は筋肉痛間違いなし。
今回の撮影のスタイリストはその世界ではそこそこ有名な韓国人らしく、彼女の格好を見た時点で、あぁこれはまずいかな、と思っていたのだが、やはり滑稽な格好をさせられた。それも、周りの人間もレディースの服を着るように半強制された。男性でも着れるような女性服ではなく、女性にしか着れない女性服だ。僕は普段、女性モノを着ることが多い。というのは、こちらで売られている男性服はブランドにもよるが大きすぎて着ることが出来ないのだ。しかし、それでもヒョウタンの下半分の形をしたパーティドレスなどを着るのは初めての経験だった。それも上半身裸である。そしてその格好でぐるぐる回るのだ。そう、草原(高原)で狂ったように回るハイジの様に・・・。他にはピンク色のワンピース、爺シャツとブリーフを繋げた感じのワンピース形ノースリーブパンツ(?)、最後の方でversaceの赤紫の海パンなどを着た。ちなみに今回僕らがサポーター無しで履いた水着はそのままアウトレットで売られるらしい。アウトレットで買ったものはよく洗うか、買わない方が無難であろう。
撮影について。そこに来ていた友人の日本人がDiegoのアシスタントに僕を紹介してくれた。何か手伝うことがあったら手伝わせてくれと頼むと、アシスタントのアシスタント的な仕事を任された。スタジオを箒で掃いたりだ。やはりカメラやライトには触らせてくれない。露出計を使うことは出来たのだが、もう既に人ごとの分担が決まっていて、僕が入る余地などなかった。まあ、それは仕方のないことだろう。
とにかく見ていて思ったのが、イタリア人は仕事が遅すぎる。そして、ちょっと考えればわかることをいちいち試してみないとわからない。その分時間がかかる。今回撮影が深夜まで続いたのは、半分はアシスタントの仕事の遅さのせいだろう。Diegoが指示したことを、そのままやるということが出来ず、五つのことを指示されたら、そのうち三つは忘れてしまうのだ。それでdiegoがものすごくイライラしている様子が伝わってくる。そして、それはアシスタントだけに言えることではなく、diego自身も少し考えれば無理であろうことはすぐにわかることを、指示したりする。そこでアシスタントが「ここがこうであるからどうしてもこうなってしまう。だからこうするのはどう考えても無理である」ということをdiegoが納得する形で説明できれば良いのだが、それが出来ないため(もしくはアシスタント自身もそれに気付かないため)、またそこで莫大な時間と手間がかかってしまっている。Diegoの良いところは、とても解りやすくアシスタントに説明するということだ。両手に一つずつカメラを持って、他の仕事をしているアシスタントに、イライラしながらも、とても明解にゆっくりと何故それをやってはいけないか説明する。日本人の僕でも解るような優しいイタリア語でだ。これは何人もアシスタントを抱えるカメラマンにとってはとても大切なことであると思う。自分が彼らの師であることをきちんと自覚している。使い捨てを使うような態度は絶対にとらない。そして、アシスタントや、僕らエキストラのモデルのいうこともきちんと聞いて、それについてきちんと考えてくれる。モデルが、「これは無理」と言えば他の方法をちゃんと考えて指示してくれる。diego自身、アーティストとしてだけではなく、人間としてもとてもよくできていると思う。
ただ、気分の上下がものすごい激しい。テンションが低い時は本当に低いが、高い時は本当に高い。今回の撮影でも、はじめの数時間はかなり機嫌が悪かった。それはアシスタントの仕事の遅さのせいでもあり、自分の思い通りに事が進まないからでもあり、最近の超多忙な生活のせいでもあるだろう。しかし、一度勢いに乗ってしまうとテンションはものすごく高くなり、スタジオ全体の空気も大きく変わる。後半の方は撮られる方もかなり気持ちが良かった。ギャグが飛び交ったりもして快適である。
僕がdiegoの立場であった場合、後ろの方のエキストラモデルにもしっかりした表情を作ってもらいたいと思う。それがわかっていたので、僕は本気でやった。自分が役者であるかの様にやった。一流モデルは自分がプロであることを自覚していて、トップになりたいと思っているので、本当にちゃんとやる。しかし、今回のエキストラのように、ミラノで学生をやっている日本人には当然そんな意識はない。エキストラと言えどもきちんとしたスタジオでの撮影などほとんど経験したことのないような人たちだ。そこには照れや居心地の悪さが入って当然である。Diegoがそれに多少の不満を持ちつつも、仕方ないと思っているのが目にとれた。これではいけないと思い、恥など捨てて本気でやろうと思った。そして、それがdiegoに伝わったようで、ポラロイドでの試しを見たdiegoは僕に近付いてきて「君は本当に素晴らしい」と褒めてくれた。これは単純に嬉しいことであり、それから後の撮影もノリに乗った。自分が本物の役者であると錯覚するくらいが丁度良い。次の日の午前2時に全9カットの撮影が全て終わった。もう皆ヘトヘトだったが、やり遂げたという思いは各々きちんと感じているようで、自然に拍手が沸いた。約13時間、休憩といった休憩無しのハードな撮影であった。Diegoの様子を見ると、本当に満足しているようだ。こちらとしても嬉しい。