30.10.03

バスの中で

 今日、バスに乗って家に帰る途中に、同じバスに乗っていた一人の女性の視線を感じた。イタリア人は、失礼とかいうことを考えずに人のことをずっと凝視することがあるので(人をジロジロ見ることが失礼にあたるという考えは日本特有のものなのではないかと最近は思っているのだが)、あぁ、またか、と思ってちょっと睨みをきかせようかとその女性の目を見た瞬間に僕は凍り付いた。その40代ほどの女性の目が思いっきり見開いていて、まるで殺される瞬間の人間が殺そうとしている人間を呪うような目つきで見つめるような感じで、今までこんな目は見たことがない。そう、まるで僕のことを呪っているような目でこちらを見つめているのだ。それも瞬きもしないし、僕と目が合っても目を逸らしもしない。僕は一瞬のうちにとても怖くなって目を逸らした。しばらくその女性は僕の方を見ていたが、そのうちこちらに背を向けた。それでも僕は恐ろしくて、しばらく女性の方を向けなかった。またあの目で見つめられると思うと、本当に恐ろしかったのだ。下手なホラー映画を見るより遥かに怖かった。そのうち彼女は僕の前の方に行き、後ろに首を回さないと僕を見ることが出来ない格好になった。そこでようやく僕は女性の方に視線を送ってみることが出来た。それでも突然後ろを振り向くんじゃないかと、内心ドキドキしていたのだが。斜め後ろから彼女の横顔を見てみると、その女性は本当に不幸そうな顔をしていた。失礼なことを言っているのかもしれないが、どのような人生を送るとあのような悲愴な表情が出来るのか想像もつかない。絶望とか、そういうのではなく、全ての不幸を本人も気付かぬうちに受け入れてしまっていて、それが全て表情に表れてしまっている、そんな顔だった。彼女の薬指には指輪がなかった。靴と鞄はプラダだった。格好はいたって普通である。同じ悲愴な顔でも、同情心を煽るような顔ってある。しかし彼女の顔は同情心どころか、恐怖心を煽るのである。こういう顔ってあるのだ。今も彼女のあの目が頭にこびりついている。今夜は眠りたくない。

投稿者 tomo : 30.10.03 23:27 | トラックバック
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